読み終えたときに、うわぁ〜コレは物凄い本を読んでしまったと思ったのに、数日経って尾を引いている感情を追いかけてみるも何か掴めたような結果何にも掴めてなかったような、それでも誰かに話したくなるような、何か書いてみたくなるような、そんな本だった。
朝井リョウの2冊 *ネタバレなし
『正欲』
と『スター』
最新作の『正欲』がいわゆる黒版で『スター』が白版の位置付け、だそう。
(朝井リョウがインタビューで言っていた)
そんなことは知らずにスターから読んだのだけど、なるほどと思った。物語り自体はまったくリンクしていないし、書いてることの方向性も違うのだけど白版黒版と言われるとしっくりくる。
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昔、テレ東の【家、ついて行ってイイですか?】で昼間からカウンターで呑んでるおじいちゃんをつかまえて家にいったら、作家だったか愛読家だったかで、とにかく家の中が本だらけだったことがあった。
その人が、なんでそんなに本を読むのかと聞いてきたディレクターに「どの本にも “人はどう生きるべきか” ということが書いてある」と答えていて冒頭とおなじくうわぁあああと痺れた。
それから何年も経ってるけど考えれば考えるほど、「なぜ本を読むのか」この究極の問いに対する至高の答えだなと。たしかにビジネス本も料理本も恋愛小説も、突き詰めればそこが書いてある。漫画も。
だからわたしは本を読む人を信用しているのかーと妙に腑に落ちた。
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朝井リョウの本を読んでるととにかくいろんなことが頭を巡る。
仕事でぼんやり考えていたこととや、テレビや広告をみてふと感じていた違和感、ツイッターで流れていた断片的な言葉。
日常のなかで留めずに流していた感情?とも呼べないような...感触みたいなもののの一つひとつが粒だってくるというか次々頭の中を襲ってくるというか。
すごい作家がでてきたなぁと思うし、もっとすごい作家になっていくんだろうなと思う。(誰禁止)
名前がカタカナであるとか、平成生まれ代表感とか、出世作のタイトルがなんか鼻につくとか、りょうじゃなくてあえてのリョウなんだ...とか作品の本質とはほど遠いところで敬遠していた2年前のわたしよ、とっとと読みなさい。
そしてもし同じ理由で手に取ってない人がいたら、ぜひ、ぜひ読んでみて欲しい。
わたしは昭和生まれだけど、 朝井リョウが切り取る今の景色がビシバシ響いてくる。どちらの本にもこれが正解です〜というようなふんわり香る結末もなくて、問いを問いのまま残している部分が多い。それゆえに、読み終えたあとも自然と深く考えてしまうのかもしれない。
その問いはまさに、おじいちゃんが言ってた「今の時代をどう生きるべきか」 ということに尽きる。
ただ一つ言えるのは、自分がなんか嫌だなと思っていた感触が本のなかで次々言語化されていく感覚はすこぶる爽快だったし、そのためだけに私は今後も朝井リョウを読むだろうと思う。
たとえば、「多様性」を声高にさけびながら全方位にナデナデしないとすぐ叩かれちゃう風潮に気持ち悪さを感じていたし、akaインフルエンサーたちが全てにスタンスと答えを持っているかのように振る舞うのにも白けてたし、そういう強い言葉に群がる世間にも腹が立っていた。医師や専門家を差し置いて、橋下徹が東国原がコロナを解説する言葉をありがたがるワイドショーにも腹が立っていた。若手イケメン俳優を起用した少女漫画原作の映画で行われるナメたプロモーション、誰も本気を差し出してないですよ感にもうんざりしていた。
......わたしは結構色んなことに怒っていたんだな。うん。笑
ほんと読んで。面白いから。
最近の読書記録
『風に舞いあがるビニールシート』のジェネレーションXという短編が面白くて印象に残っている。仕事で謝罪にむかう車の中で、おじさんが運転席の若者にかかってくる電話を延々聞かされるシーンでほぼ構成されてるのだけど、めちゃくちゃいいオチですごい好き。