しんどい、の正体

これを言ったら相手にどう思われるだろうか....

自分はどう映るだろうか.... 

 

大したことない自分を少しでもよくみせたくて、コミュニケーションにおいての消極性をいかんなく発揮することは多々あった(というかそれがベースで生きている)のだけど、他者の感情を受け取るのが怖い、という理由でコミュニケーションから距離を置いたのははじめてだったかもしれない。

 

「がん」という言葉のインパクトはそれほどまでに強い。

ステージに関わらず、相手を少なからず動揺させることになる。

 

 

わたしの場合、夫と一人の友人以外にはしばらく言えなかった。

とくに、乳がんを宣告されてからの検査続きだった時期が一番しんどかった。CTやMRI、血液検査、職場にも言えない状態でなんとか都合をつけて通院を重ね、一つ一つの結果を外来でビクビクしながら受け止めていた時期。

じつはもう見えないところで全身に転移しているんじゃないか。その一欠片が先に見つかっただけなんじゃないだろうか。テレビをつければがんのCMが流れてくるし、スマホを開けばがんのニュースが表示される。夕食の後は息子と一緒にベッドに入り、寝顔をみながらぼうっとすることが増えた。

 

病院には、毎回チャリを20分ほど爆走させて通った。

川沿いの一本道。夫は熱中症を心配したが、大丈夫と言って毎回そうした。

景色には感情がなくて一緒にいて楽だった。

診察室を開ける勇気は、最後に渡る大きな橋からの眺めがいつもくれた。

 

 

死ぬことはなさそうで、どうやら手術すれば大丈夫っぽい。

ここまで来て、やっと人に言えるようになった。上司、近しい友人、両親、家族。

それでも毎回、「乳がん」という言葉を発するには会話の中でふと勇気がわいたタイミングでしか言えなかった。そして相手が受け取るショックは、わたしがようやく乗り越えてきた数ヶ月をいとも簡単に戻す力をもっていた。

その場を繕う同情、親身な励まし、知り合いのガンサバイバー情報、まじで全部いらないからクールに受け止めて欲しい。低温対応でお願いします。

関係性にもよるが、わたしには概ねそれがありがたかった。

 

えぇぇぇぇぇ.... とか言葉を失うとか、過剰なリアクションは結構きつい。実際にはもちろん大ごとだし、自分が逆の立場だったらそんな風にしてしまうかもしれないが、その手の反応の後には大体、“そっち側の人”と線を引かれているような孤独を感じることが多かった。

 

では文面はどうか。リアクションは見ないで済む、がメッセージの送信とともに最大級の配慮を相手に背負わせることになってしまう。しかも唐突に。

 

もうこうやって書いていると、わたしがセンシティブすぎ、気にしすぎ、それに尽きる。

間違いない(笑)

 

 

そして、今回の場合「乳がん」をようやく経たところに、遺伝子検査からの「全摘」という決断が最後の最後に加わった。

 

パトラッシュ、もう疲れたよ

 

遺伝子検査については説明が必要だし、再びパワーワードを投げる力は残ってなかった。

 

仕事のチームメンバーには「婦人科系の病気でちょっと入院することになって.....」とだけ伝えて休みに入った。“婦人科系”というと男性はそれ以上聞いてこないし、女性は大なり小なり想像できる経験や知識があるので、同志のような眼差しで“深くは聞かない”という優しさをもって送り出してくれた。

もし、同じような状況の人がいたら “婦人科系”、使ってください。

 

プロフェッショナル

くもをさがす

たまたま今年4月に西加奈子のノンフィクションエッセイ『くもをさがす』を読んでいた。著者がバンクーバー乳がんを乗り越えた話。

そこには、当時の看護師さんや医師たちの対応があまりにあっけらかんとしていて救われた、というような内容があった。誰もわたしを可哀想な人扱いしなかったと。

これを読んだ時、あぁ...海外らしいなぁ〜〜とわかったような感想を持って妙に記憶に残っていたのだけど、自分がいざ入院してみたら、日本も一緒だった。

 

今日は、パジャマの上に羽織っていたユニクロのボアジャケットの内側に左右ポケットが付いているのを発見して、そこにドレーンの袋を入れて生活していたら「え!すごいw ぴったりじゃないですか!!!」と拍手をいただいた(笑)

 

しんどい時、結局一番救われるのはただ普通に居てくれることだ。(まぁ、それも関係性によるのでむずかしいのだけれども)

 

当人以上に大袈裟にしない、これは肝に銘じていきたい。

 

そして、これは少し文脈が変わるかもしれないがわたし自身もう少しわがままに生きようという気になっている。シンプルにというか。

 

他人の目を気にしすぎるのはもう辞め時だ。

 

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