それは2日目に起こった。
「やめとけ、タクシーにしとけ」という皆の忠告を振り切って、首都コロンボ〜シギリヤ間をあえて列車とバスを乗り継いで移動しようと提案したのはわたしだ。
思えばその選択から既にデスロードははじまっていたのかもしれない。
9時発の列車は1時間遅れでホームに現れた。ファーストクラスと呼ぶには忍びない1号車に乗り込み座席番号を探す。
なんと幸運にも前面に窓のひらけた展望席。喜んだのもつかの間、遅れてきたことなど微塵も感じさせずに容赦無く走り込む乗客を切り捨てて発車する列車。
それが、揺れる。
超揺れる。
脱線したと言われれば、
でしょうね!と声を揃えられるくらい
激しい縦揺れ、横揺れ、尻浮き。
え?この感じで2時間半?
まじか、まじだよね?
言葉を発さずとも友人Sと目を見合わせて爆笑。
どれくらい揺れるかというと、
1時間後、無言で目が合いまだ爆笑するくらい揺れていた。本を読むなど無謀の所業。身体ごとブォンブォン持っていかれる。
手前の棚に二人で食べようと置いていたクッキーは、ものの3分で隣のインド人父子の前まで移動していた。
ソーリーと言いながらクッキーを取り戻す友人S。その行為がとたん卑しく感じたのだろう。インド人父子に「一枚どう?」とクッキーの袋を差し出したら「ノー!」とはっきり断られていた。
電車にゆられに揺られて2時間半。
終点のキャンディ駅に着いた。
天気は最高!
タクシー 100km l キャンディ駅〜シギリア
当初のバス乗り継ぎ計画を即刻捨てて、タクシーに切り替える私たち。
そんな私たちの気配を察して近づいてくるタクシー運転手。
男「ドコマデ?」
私「シギリアのカンダラマホテル!」
男「イーホテルネ!9000(ルピー)」
私「6000」
男「ノー!100キロメートル!9000!」
私「トヨタ?」
私「6000」
炎天下での攻防は、7000ルピー(約4200円)で着地。
案内された車はスズキだった。
こんなソッコーバレる嘘をなんの躊躇もなくつける感覚、なんなん。いや、もーそんなことを会話にあげる余力も使いたくないほど暑い。さっきまで涼しかったのに、太陽が上がると一気に灼熱へと変わるのがスリランカの気候らしい。
いまが12:30だから、
1秒でも早くホテルに着いて、
プールに入りたい。
絶対プール。
男「ミュージック?」
私「イエス!プリーズ!」
なにやらボックスから1枚のMDを取り出しセット。MD!!
男(と書いていたが40代くらいのおじさん)による選曲は、
♪ ブルーノ・マーズ 〜Just The Way You Are〜
苦しゅうない!出発!!!ゴーゴー!
市街を抜けると、 スリランカの道はひたすら一本道だ。
点Aと点Bを繋ぐ一本道。時々点Cへの道が交差。
片側一車線のせっまい道を、
車、バイク、大型トラック、自転車、トゥクトゥク的なやつ、
ぜんぶが一緒に通る。通るしかない。
前の車おっそいなー...と思うと、トゥクトゥク的な奴がその前にいたりする。
あるいは、チャリが堂々とセンターを張ってたりする。
であるからして、詰まるところ抜くしかないのだ。オンボロのバンだとはいえ、チャリの後続で行ってる場合じゃない。しかーし、抜かせてあげよう!と左に寄ったりしないのがスリランカルールらしい。
対向車線からもガンガン車やら何やらが通る中、ぶおぉぉぉぉぉぉぉーーんとアクセルを全開に踏み、グーーンと思い切って対向車線に飛び出し、尻に振動を感じながら、あーー死ぬ!と思いながら抜くしかないのである。
....あーーここで死ぬよ、私。
のち、沸き起こる感情は、
道かルール、もうちょっと工夫せえよ!という憤怒。
あーー死ぬ材料は他にもある。ドライバー(おじさん)の判断がぜんぜん安心できない。せっかちdeかなり攻める。バイク相手に車間も超詰める。んで、謎の電話超かかってくる。(海外ドライバーあるある)
いま片手つかって喋る必要あるー!?もーー、とにかくドライビングに集中してください。お願いします(泣)死にます。
それをギュッと訳して、友人Sが後部座席から身を乗り出して放った一言。
「ゴーー!セーフティ!!プリーズ」
わたしもSもすっごい険しい顔をしていたと思う。何か相手に一言告げ、呆れ顔で電話を切ったドライバーは、わたしたちを振り返って
「ライフ イズ プレシャス? アーハン?笑」
と言ってきた。
アーハンじゃねえよ!!
うーるーせぇーーよ!!!!
そこからは、わずかに残していたドライバーとの仲良しハッピージャーニーの可能性を捨てて、後部座席から厳しい目でドライビングを監視するわたしとS。
おじさんのモチベーションは、なんせ抜くことにシフト。
全盛期の佐藤琢磨さながらの攻めに次ぐ攻め。こちらがヒィーーーと声をあげることさえ楽しむかのようなオーバーテイク祭り。すなわち、対向車線に飛び出し祭り。
ふと気がつくと時速80kmは優に出ていた。スピードのあまり車体が時々宙に浮く。
わたしは青ざめながらも祈るような気持ちで、後部座席のグリップを汗だくの右手で握り、友人Sはとうとうシートに体を預けながらも、ドライバーと前方車線を交互に見つめ監視の手を緩めてはいなかった。
車の外には美しく雄大な自然が広がっているというのに
無言で絶景もサルもやりすごす。
一本道をいくこと3時間。
ついに車が右折した。
ここからは、あと30分だと言う。
が、30分経てど到着する気配がない。
人も通ってないような田舎道を、チャリ、バイク、車をごぼう抜きにしてひたすら爆走する一台のバン。 答えは1時間後にわかるのだが、なんとこの車、爆走しながら曲がるべきホテルへの左折地点を一瞥もせず走り去っていたという。
方向音痴の私でもさすがにわかる。
だって、来た道をただただ引き返しているのだから。
「ユーノウ?ヘリタンスカンダラマ??!」
「アイドンノー。ファーストタイム」
......ぷっちーーーーーん。
静かに、同時にキレた。
そこからの道のりは思い返すも地獄、
まさに怒りのデスロードと化した。
日が暮れてきた道沿いになんとか人をみつけると、車を止めろー!と叫び、道を確認させること数回。今考えると私たちは滑稽なほどキレにキレていた。そして、まさか一台の汚いバンがそんなどエライ空気で到着するとは、ホテルの人もびっくりだったと思う。
高台のエントランスへと最後の力を振り絞りブォォォオオオンと唸りを上げて入ってきた一台のバン。
日本人らしき女二人とドライバーが降りてくる。
一人3000ルピーずつ財布から取り出し、男に渡そうとする女二人。
男「ノー!7000!!!」
女①「ノーー!!6000!!!ユアフォルト!!!」
女②「ユアーライヤー!!!」
二人分6000ルピーを束ねて男の胸ポケットに押し込もうとする女②。
身を翻してそれを必死で避ける男。
男「ノーー!7000!!!」
女②「もォーーー、なんなの!!ファイブアワーズ!ビーコーズオブユー!」
女①「ユーディドゥント ノウ ディスホテル!!」
男「ノーー!7000!!!」
リゾートホテルのレセプション目の前で、一歩もひかない両者。泣きそうな顔で6000ルピーを女①に渡し判断を委ねる女②。
女①、男の目を見ながら6000ルピーの束を岩のオブジェの上に置く。
「はい!もうこれでバイバイ!!!!」
去ろうとする女①。
腕を掴む男。
男「ノーー!!!」
女②「もーー、コイツ全然ひかない(涙目)もう出す」
女①の手から6000ルピーを取り、1000ルピーを足し、乱暴に男の胸に札束を押し付ける女②。
二人の女、ドライバーを振り返りもせず憤怒の表情で歩いてくる。
レセプションの女A、恐る恐る女二人に近づき遠慮がちな笑顔でウェルカムフラワーを手渡す。
女二人、この旅で一番楽しみにしていたホテルに到着する。
女②、花を見つめる。
1000ルピー...日本円にして600円....
女②、 ふたたび花を見つめる。
写真 : 林旅製作所特選!ヘリタンス・カンダラマのフォトギャラリー | 林旅製作所 右端に見切れているのが6000ルピーの札束を置いた岩。「怒」いや「卑」の感情など起こりようもない壮大なバワ建築を前に、手渡された白い花を見つめたよね。
#スリランカ旅行 #ヘリタンスカンダラマ #バワ建築