幼馴染 S子の事情

え、空港あるの?と驚かれるほどの田舎に高校生までいた。

そんな時はたいてい「空港くらいあるわ!」とツッコみながらも、

全力でいけない後ろめたさもある。

 

だって、あんな小さい空港他で見たことない。

 

「本気出せば、5歩で空港出れる」

と旦那がふざけて言うが、それもあながち嘘ではない。

たぶん9歩くらいだと思う。 

 

手荷物が流れるベルトコンベアの長さも、

おそらく世界最短だ。そして、不要だ。

 

高校時代、コンビニができるらしいよ!と聞いた場所は、

自販機が10台ならぶ24Hオープンの休憩所になった。

そのうち、3台は釣り餌を売っている。

平成中にコンビニはたぶん建たない。

 

パチンコ屋の駐車場をみれば誰がいるかわかる。

同窓会がスナックで開催される。

昼食もスナックで食べる。

番地を書かなくても、名前さえ書けば荷物が届く。

 

そんな田舎で、小中高をずっと一緒に過ごした友だち。

それがS子だ。 

 

30年以上の付き合い

幼稚園の頃から知っている。互いへの手紙を書いたタイムカプセルを家の裏に埋めて、興奮冷めやらず1週間後に掘り出したり、家の前の川でクラゲをすくっておもちゃの包丁とまな板でままごとをしたり。中学に上がってからは、美術担当の林という先生がムカつくという理由で「私たち1年間ハヤシライスを食べません」と真剣に宣言したり、 高校では連日テレビでやっていたグラチャンバレーに影響され好きな選手の真似をして体育を一時間やりきった後、トイレでビオレを貸しあったりした。

高校卒業と同時に関西へ旅立つ同級生がほどんどのなか、S子と私は東京一択。S子は美大に入り、わたしは吉祥寺の大学に進学した。

大学ではろくに勉強もせずに【バイト三昧 >> 貯まったらS子と旅】を繰り返していると瞬殺で最高の4年間が終わった。正義感が強いくせにビビりで、お金もなくて、情報といえば『地球の歩き方』しか持ち合わせてなかった当時の二人旅はもれなく珍道中だった記憶しかない。ミラノの切符売り場でも怒られたし、バルセロナ修道院でも怒られたし、テレトレドの取材クルーにも怒られた。その上、地図が読めずにいっつも迷って険悪になっていた。それでも二人旅は4年間続いた。

 

彼女の事情

お互いアラフォーになった。

関係は変わらない。

 

彼女が休日をどう過ごしてるのかは知らないが、 

仕事後に思い立って飲んだりもするし、

地元に帰れば、地元ならではの集まりの中で

自然に顔を会わせたりもする。

 

何が事情かといえば、

彼女には、37年間彼氏がいない。

(たぶん)

 

理由はわからない。

全くブスじゃない。むしろ美人だ。

 

10代、20代、周りが恋愛にキャンキャン騒いでるときにも

わりと低体温にその場をやり過ごしている感じがあった。

合コンもつまらなそうに参加していた。

 

あんなに美人で彼氏ができないのには何か理由があるはずだ!と騒ぎ立て

「美人すぎて近づきがたいのでは?」

「理想が高すぎるのでは?」

「恋愛して甘えたことないから隙がないのでは?」

などと勝手に理由を詮索したことも一度や二度じゃない。

 

S子がその場にいてもいなくても、周囲の詮索は容赦なかった。

 

さらに、彼女が周囲の興味を惹いてしまう理由は他にもある。

S子は自分を人と比べない。

昔からずっとそうだ。

 

周りに合わせることでくだらない安心を得ていた思春期にして、彼女は一人自由だった。女子同士の常識もクラス内のヒエラルキーも彼女には全く通用しなかった。

みんなが壮大な暇を持て余してる時代にして、どんなに予定が空いてても心が動かない誘いにはノーというし、他人の恋愛話しに全力を傾けるという女子高生の義務も怠っていたと思う。「告白される」という一大事も彼女にとっては日常茶飯事で、それをネタにすることもなければ、勿体ぶって隠すこともなく、マイペースに振りまくるという独特のスタイルを貫いていた。

不自由にしか生きられない部分を誰しも抱えている中、

彼女の存在はある種、違和感だった。

いまだって、「興味ない」というシンプルな理由でSNSを一切やっていない。

 

その強さ、自由さに、

存在感が出てしまうのがS子だ。

 

ほっとけよ

彼女は美大を卒業後、誰もが知る有名ブランドのジュエリーデザイナーとしてバリバリ働いている。

ただ「彼氏」がずっといない。

それが周囲の格好の的になってしまう。

とくに、平気で子供を2〜3人育てている同級生がうじゃうじゃいる田舎では余計に浮く。

 

彼氏がいない、結婚してない、子供がいない。

それだけのことが東京の500倍ネタになる。

 

S子の場合、彼氏がいないという一点のみで、

さも彼女の人生が充実していないかのように上から語る人間もいる。

その中には、華やかな生活への妬みが含まれていることを私は知っている。

 

田舎の「ふつう」、東京の「ふつう」、日本人の「ふつう」。

どれも呪縛だ。

 

彼女にはずっと彼女らしく、伸びやかにいて欲しい。

キラキラおしゃれでいて欲しい。

S子とは、もうここ数年恋愛トークをしていないから彼女の恋愛観もよくわからないが、わたし自身、結婚がゴールではないことを身を以て知ってるし、アホみたいな顔で「ふつう」を振りかざしてくるやつのウザさも知っている。

 

要約すると、ほっとけよ。

ということになる。

小石を投げてくんなよ、と思う。

 

〝つまらない時間、つまらない人生を過ごしている奴に限って小石を投げてくる〟の法則は、わたしの人生で実証済みだ。

 

f:id:suratanmen:20190105142634j:plainそんなS子と3月、スリランカ旅行へいく。久しぶりの二人旅。アラフォーにしてまた道に迷って喧嘩すると思う。

#人生勉強中